初めての不思議体験
私が六歳の春に父方の祖父が亡くなった。
父は5人兄弟の末っ子だが家を継ぎ、私もその家で育った。
山と山の間の谷の様な田舎に住み、家も無駄に大きい昔ながらの平屋だ。
今と違い、昔は自宅で葬儀を行った。
もちろん、祖父の葬儀もそうであった。
面白い風習もあり、葬儀は必ずご近所さんが手伝いにくる。
男性陣は通夜も葬儀もずっと故人を偲び宴をする。
女性陣は台所に立ちその宴の用意をする。そして何故か醤油の一升瓶を各家が持ち寄る。
父の兄弟も集まり、夜も更け、皆いい気分で寝ずの番が始まりそうな頃、
長男にあたる叔父が仏壇の前に座りなんだか一人で話し始めた。
祖父は仏壇のすぐそばのお座敷に寝かされているのだか、仏壇の前で永遠と独り言を言っている叔父に 親戚一同みな不思議がっていた。
『叔父、何をさっきから一人でブツブツ言っているんだ?』と聞くと
『何言ってる?親父がここに居るだろう。寂しいから一人にするなとうるさいんだよ』と叔父が言う。
叔父以外、誰ひとりとして祖父の姿を見る事はできなかったが、夜が明けるまで叔父は仏壇の前から離れなかった。
長男と親との深い絆があるのだろうか。
あの不思議でどこか温かい光景が今も忘れられない。